魂の骨格 第37回 スーツデザイナー 澗淵隆文
2012-02-23 00:00 更新
映画『ゴジラVSスペースゴジラ』にて、37年ぶりに銀幕へ返り咲いたMOGERA。シルバーメタリックに輝く姿は、シルエットこそ『地球防衛軍』のモゲラを踏襲しつつも、より兵器としてのスパルタンな魅力を醸し出していた。
本項では『スペースゴジラ』版モゲラの劇中スーツの造形を担当し、「S.H.MonsterArts MOGERA」の監修も担当したという、澗淵隆文さんに当時のエピソードをお尋ねした。
■MOGERAへの関わり
――『ゴジラVSスペースゴジラ』にはどのような流れで参加なさいましたか?
澗淵 当時ボンクラフトに所属していて、そこで映画『ヤマトタケル』のウツノイクサガミのスーツを造形したんです。その流れで依頼された仕事だと思います。個人的にロボットのキャラクターは大好きなので、願ってもない話だなって。嬉しかったですね。
――MOGERAを造るにあたって、心がけた点はどのようなものですか?
澗淵 前の年の映画『ゴジラVSメカゴジラ』のオープニングで、下からメカゴジラをなめるようにカメラが寄っていくカットがあったんです。大画面でそれを見た時に、MOGERAはドアップカメラが来たとしても堪えられる造形にする必要を感じまして、プレッシャーになりましたね。もう一つは過去に存在した怪獣なので、昔のイメージを大事にしたかったんです。ファンの方を落胆させないような造形にしないといけないなって。
――デザインをどのようなコンセプトで、立体として仕上げていったのでしょうか?
澗淵 デザイン画を見た時に思ったのは、曲線と直線が組み合わせることで立体映えするだろうな、ということと、ウエスト周辺がすごく複雑な構造になってまして、それをどう処理しようかな、という2点でした。この二つを上手く処理できれば、キャラクターをかっこよく見せられると思ったので、気を使いましたね。
――MOGERAは全身のキャタピラが印象的でした。
澗淵 身体のあちらこちらにあるキャタピラの立体表現には力を入れましたね。実際に機能しそうに見せるために、平面にキャタピラのディティールを彫るだけでなく、微妙に斜めの傾斜を入れたりなどの小技をちょこちょこ効かせたりとかね。実際に回りそうに見える処理を心がけました。キャタピラについてはS.H.MonsterArtsの監修の時にもこだわった点です。
■MOGERA造形時のエピソード
▲MOGERA原型
▲当時の現場写真
――MOGERAのスーツはどのような段取りで造られていったのでしょうか?
澗淵 スーツを製作する前に、粘土で小さなマケットを作ったんです。サイズは30センチぐらいで、実際のスーツと近いバランスのものになっています。人が入ることも意識しています。MOGERAはスカート部分が結構大きいので、実際のスーツにした時に動きが成立するかどうかもマケットの時点で検証しました。
――では各部についてお聞かせ下さい。まずは顔からお願いします。
澗淵 頭の部分は他のスタッフがやっていたんですが、上手くまとまらなかったので私が仕上げました。最初は図面通りに造っていまして、さらに立体感を強調するために処理を施しています。自分なりに完成形をイメージしながら、よりかっこよく見せる形状を出すために何度も盛ったり削ったりしました。あと巨大なメカニックなので、下から煽ったアングルの時にもかっこよく見える形状を目指しています。具体的には下から見た時も、目の部分が見えるように考慮して、斜め下を向けるなどの処理をしています。
――背中のノコギリには、『地球防衛軍』版モゲラのイメージが残されてますね。
澗淵 背中のノコギリをどんな形状になるのかは、川北(紘一)監督もなかなか決めかねていたようで、一時はノコギリが無い時もありました。でも、ノコギリが無いと横から見た時に、モゲラのイメージが削げてしまうので、最終的には付けることになりました。
――腕には開閉ギミックが入っていますね。
澗淵 川北監督が腕の先が開いて何かを出すから、って言ってたので、最初からパカッと開くギミックそのものは想定していました。でも中からでてくるのが何かなかなか決まらなかったんです。結局、スパイラルグレネードのデザインが届いたのが納品まで1週間を切ってるぐらいの頃で(笑)。すごい大慌てで作りました。
――川北監督とのやり取りは、他にはどんなものが?
澗淵 腹部のメーサー砲ですね。これも最初お腹が開くってことは決まっていたのですが、やっはり何が出るのか決まってなかった。一番最初はドリルという話でしたけど、そんな巨大なドリルが回転するのは、人が入った着ぐるみではまず無理だろうと。そこでドリル案は早々に消えたんですけど、何が出るのかなかなか決まらなかった。これもグレネードと同時ぐらいに決まったんじゃないかな。
――見れば見るほど、細かな部分までディテールが入ってますね。
澗淵 巨大なロボットといえば、ただ単に大きなものを作っても説得力がありません。単なる大きな物体であるはずがないので、色々なパネルラインが組み合わさってできているはずなんですよ。だから、細かなディティールは加えれば加えるほど、より巨大感は増すだろうと。『ゴジラVSメカゴジラ』のメカゴジラが意外とツルンとした形状だったので、MOGERAを造る際には、時間が許される限り全身にディティールを入れたいなって思ったんです。色もパッと見では、シルバー一色に見えるんですが、実際はシルバーだけで3色ぐらい使い、濃淡を付けて立体感を出していました。
――造形を終えてみていかがでしたか?
澗淵 私個人としてはあまり悩まずにいけたキャラクターですね。デザインを見た段階では苦戦するかも、って思ったんですが、実際に造ってみるとどんどん突き進むことができました。非常に苦戦しないで、MOGERAは形を出すことができたキャラクターですね。
■MOGERAの監修ポイント
――S.H.MonsterArtsの監修はどの部分にこだわられたのでしょうか?
澗淵 シルエットとフォルムですね。最初に見せてもらったCAD図面が結構かっこよくて、通常の玩具製造の感覚だったらこれでOKのレベルだったんです。ところがコレクターズ事業部さんのこだわりはより高みをめざしていたので、当時の記憶を呼び起こしつつ写真を見ながら、丸1日かけて比較しました。あとは微妙な傾斜とか、写真や映像ではわからない部分もあるんです。そういったところを重点的にチェックさせていただきました。改めて試作品を見せていただくと、私の指示が的確に伝わっていて凄いな、って感じますね。着ぐるみの現物を見ずに、ここまでの形を纏めたのはかなり苦労があったのではないでしょうか。
――S.H.MonsterArtsとして商品化して欲しいキャラクターはありますか?
澗淵 スーパーX(編注/『ゴジラ』1984年版に登場)ですね。あの固まり感が好きなんです。ギミック満載で出して欲しいですね。怪獣だったらチタノザウルス(編注/『メカゴジラの逆襲』に登場)。マイナーだけど非常に着ぐるみの出来がよくて、正統派の恐竜タイプの怪獣ですよね。色もカラフルだから商品として良いかなって。ちょっと着ぐるみがくたびれた感じのメカゴジラIIも好きです。
――最後にMOGERAというキャラクターに関わった感慨をお願いします。
澗淵 なんといっても『ゴジラ』という大きなタイトルに参加できましたことが嬉しいですね。今後も残っていくキャラクターだと思いますから、誇りに感じています。私自身ゴジラシリーズに関わったのは最初だったのですが、1本でもいいから関わりたいって思っていたくらいですから。当時バンダイさんから合体玩具(編注/超機動マシン 合体モゲラ)も出てましたが、デザイン的に無理っていうのもあるし、その時の玩具としては個人的には残念な感じでした。しかし、今はこれだけよくできたMOGERAのフィギュアが出るのだから、凄い時代になりましたね。僕の周りにも若い世代が入ってきて、『スペースゴジラ』を観た世代の人もいます。若い人に「あのMOGERAが好きです」とか言われると、やっててよかったな、って改めて感じることもあるんですよ。
1964年生まれ
1980年代にレインボー造型企画に入社。ガードノイド・ガッシュ(超獣戦隊ライブマン)、守護獣ティラノサウルス、ドラゴンシーザー(恐竜戦隊ジュウレンジャー)等を手がけた。その後独立。ボンクラフトを立ち上げて、グリッドマン、ゴッドゼノン、サンダーグリッドマン、キンググリッドマン(電光超人グリッドマン)、デスフェイサー(ウルトラマンティガ&ウルトラマンダイナ 光の星の戦士たち)の造形に携わる。現在は円谷プロの映像事業本部 製作部LSS(ライト・スカルプチャー・スタジオ)のチームリーダーとして辣腕を振るう。