魂の骨格 第28回 造形師 竹谷隆之 & 藤岡ユキオ(前編)
2011-08-26 00:00 更新
TAMASHII NATIONSの数あるコレクターズアイテムの中でも"公式監修のもと仮面ライダーをアレンジすることができる唯一のブランド"として異彩を放ち、1998年12月のスタート以来約13年間続くブランド、「S.I.C.(Super Imaginative Chogokin)」。アメリカ・マクファーレントイズ社製の『SPAWN』フィギュアにインスピレーションを受け、原型師・竹谷隆之氏と安藤賢司氏とのタッグでスタートした「S.I.C.」は、瞬く間に日本のコレクターズアイテム市場を代表する存在へと成長していった。
そこで今回は、「魂の骨格」の記念すべき第1回、2回ゲストとしてご登場頂いた竹谷隆之氏とS.I.C.の造形を担当されている藤岡ユキオ氏をお招きし、お二方が手掛けてきた「 S.I.C. 」や「S.I.C. 匠魂」について、さらには「S.I.C. 」から派生した「EQUIP&PROP(イクイップ&プロップ)」や「GARO極魂」、2011年11月からスタートする新ブランド「魔戒可動」を加えた『牙狼<GARO>』シリーズについて語っていただいた。現在は主にラフデザインやアレンジなどの監修がメインの竹谷氏と、緻密かつ確かな造形で知られる藤岡氏。果たして二人の口から、どのような言葉が飛び出すのだろうか?
■S.I.C.の誕生とその歩み
――まずは「 S.I.C. 」の立ち上げ当初についてお聞かせください。
竹谷 元々「 S.I.C. 」は、旧ボーイズトイ事業部に在籍されていた泉 勝洋さんが企画したものなんです。ですから泉さんの情熱なしでは生まれなかったし、僕もスタート当初からかなり好きにやらせて頂いて・・・バンダイさんの仕事としてもそうですけど、マスプロダクトとして考えても非常に特殊なシリーズだと思いますね。 だから立ち上げ当初は、こんなに自由にやらせてもらって、本当に大丈夫なんだろうかと思っていました(笑)。
――独自のアレンジで知られる「 S.I.C. 」ですが、アレンジのさじ加減のポイントとなるのは?
竹谷 基本的には元々のイメージを崩さないように・・・印象的な部分や良い部分を最大限に強調するように心掛けています。でも全体とのバランスもありますし、その辺りはやはり兼ね合いですね。とりあえず監修されるときに怒られないように、みたいなことは一切考えないようにしています(笑)。 修正指示は今も多少は入りますけど、最近は全体の雰囲気には影響のない部分が多いですね。
――原型師の名前をパッケージに表記するスタイルも、当時としては画期的でした。
竹谷 原型を作るスピードも含めて、一人で全部作るのはどう考えても無理だと当初から分かっていました。それで安藤さんと話し合って、キャラクターや作品ごとに仕事を割り振ることにしたんです。基本的には「やれるときにやれる方がやる」というスタイルなんですが・・・
僕は日曜日の朝は起きられないことが多いので、平成ライダーは基本的に安藤さんが担当されています(笑)。 原型師の名前に関しては、みんなで寄ってたかって作るような場合はもありますけど、"これを作ったのはこの人"というのをキチンと表記してもらうようにしています。何でもかんでも僕の名前になるのも気持ち悪いですし。
――当初、ギミックを盛り込んだスタチューとしてスタートした「 S.I.C. 」が、アクションフィギュアとして進化したのは?
竹谷 それに関しては、安藤さんの功績が大きいと思います。僕はどちらかと言えば、ギミックや関節を考えるのは苦手なので。
最初は「バンダイサイドの誰かがやってくれるんだろうな」なんて思っていたんですけどね(笑)。
おかげさまで最近は関節もしっかりしていて、純粋にトイとして見てもかなり高いレベルに到達していると思いますね。
ある意味、着地点です。
なるべく関節を見せずに躍動感のあるポーズを作りたかったら、最初からスタチューにすればいいわけですし。
そういう意味では、コレクションサイズのスタチューシリーズ「S.I.C. 匠魂」が「 S.I.C. 」から枝分かれするかのように誕生したのは、当時の流れの中では必然だったのでしょう。「S.I.C. 匠魂」も、最初の頃は自分で原型も担当していたんですが ・・・最近は僕がまずラフ画を描き、それに沿って皆さんに原型を作って頂いて、その監修をするというスタイルで進めています。 それ以前から一緒にやってはいましたが、藤岡くんがバンダイさんの仕事に本格的に関わるようになったのも、「S.I.C. 匠魂」辺りからですね。
■緻密な手作業と最新技術が融合した『牙狼<GARO>』シリーズ
――一方「 S.I.C. 」から派生したラインとしては、『牙狼<GARO>』のキャラクターを立体化した「EQUIP&PROP(イクイップ&プロップ)」も有名ですが?
竹谷 『牙狼<GARO>』関係の原型は、魔導馬など他の人の手が入っているものも一部ありますが、藤岡くんがほとんど一人でやっています。最初のテレビシリーズのときに雨宮慶太さんの完成デザイン画が届いて、当初は鬼木裕二さんに胸像ヒナ型を作ってもらっていたのですが・・・ 「金メッキだとカメラが映り込む」という理由でスーツの表面に模様が加えられ始めて、その辺りで「これはフィギュアの原型のときは、藤岡くんじゃないと無理だ・・・」と確信しました。あれじゃあまるで修行ですよ、僕は絶対に作りたくない(笑)。
藤岡 あれは修行というより・・・地獄でしたね(笑)。
――『牙狼<GARO>』シリーズならではの大変さは?
藤岡 やっぱり、全身の装飾を一個一個作っていかないといけないところですね。第1弾のガロに関しては、エッチングパーツで用意してもらった装飾物もあったので助かったんですけど、他のキャラは全員一から全部作りました。心滅獣身ガロなんかは、「ホントに発売されるのかな?」と思いながら作ってましたね(笑)。
竹谷 最近は立体物をコンピューターでスキャン出来るので、「牙狼極魂」シリーズなどは以前のアイテムをデータ化して、サイズ縮小したものを基にして作ることが出来るようになりましたけどね。
藤岡 バランスを考えて精度をアップしたりしつつ、アレンジを加えて作業していく感じですね。とにかく細かい作業なので目が痛くなるんですけど、そういう最新技術の助けがなかったら今も地獄です(笑)。
竹谷 もう少し歳を取ると、見えなくなるけどね(笑)。でもそう考えると、「安藤さんは次から次へと数もこなしているし、大変だなあ」と改めて思いますね。本当に身体には気を付けて欲しい(笑)。
――2011年11月からスタートする『牙狼<GARO>』の新ブランド「魔戒可動」シリーズは、以前の換装ギミックを廃してアクションフィギュアとしての可動域を拡げつつ、追加オプションとしてエフェクトパーツをプラスして、新旧『牙狼<GARO>』ファン共に満足度の高いアイテムとなっている。また魔導馬轟天も、発売に向けて着々と企画が進行中とのこと。今回は牙狼の騎乗姿を完璧に再現すべく、新規パーツとして風になびく細長いマントも用意されているそうだ。
藤岡 「魔戒可動」は造形的には「EQUIP&PROP(イクイップ&プロップ)」のものをほぼ流用しているので、僕は主に監修を担当しています。実作業としては新たに関節が仕込まれた試作を確認して、関節の位置やバランスを修正してもらっている感じですね。
これくらいのサイズの方が可動部の自由度も上がるので、動かしていて楽しいですね。
でも今後も『牙狼<GARO>』系アイテムのリリースは続きそうですし、これからが僕にとって本当の地獄なのかも知れません(笑)。
(後編へ続く 後編は2011年9月7日公開予定です。お楽しみに)
12月10日生まれ / 北海道出身
専門学校卒業後、月刊モデルアートの編集を経てフリーの造形師に。専門学校の先輩である雨宮慶太の映画『未来忍者』に造形美術として参加し、以後『牙狼<GARO>』を始めとする雨宮作品のスタッフとして活躍。造形師としては「S.I.C.」を始めとする人気シリーズを多数手掛ける他、オリジナル作品集『漁師の角度』も発表。高次元の造形力と、独自のデザイン力で知られる。
6月6日生まれ / 愛知県名古屋市出身
代々木アニメーション学院 SFX特撮科在学中に、講師であったMAX渡辺氏に竹谷隆之氏を紹介され、竹谷氏の造形を手伝うようになる。ゼイラム2やマガラガなどのフィギュアの造形を手掛けたのち、現在はS.I.C.シリーズや牙狼のフィギュアの造形を手掛けている。
[ S.I.C. ] |
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© 2005 雨宮慶太 / Project GARO