魂の骨格 第26回 漫画家・キャラクターデザイナー ほるまりん




『メダロット』・・・それは1997年に販売されたロボット育成RPGゲームである。ソフト発売と同時に雑誌「コミックボンボン」でコミックが連載され、従来のロボット物とは一線を画する設定や描写が子供達に人気となった。そして1999年には続編『メダロット2』が発売。これにあわせてTVアニメの放送もスタートする。アニメ、コミック終了後もソフト展開は続き、2010年には8年ぶりの新作『メダロットDS』が発売された。

メダロットは「ティンペット」(TIN PET=ブリキ製ペットの意)と呼ばれる基本フレームに、頭脳の役割を担う「メダル」、頭部、右腕、左腕、脚部のパーツを装着することで完成する。「彼ら」はメダルごとに異なる性格を持つ自律型ロボットで、その身長は約1メートルというロボット物では珍しいサイズが設定された。またメダロットはコンビニで普通に買えるなど、本作ではロボットが活躍する舞台を現実と変わらない世界として表現。このリアルな世界観も『メダロット』の魅力と言えよう。今回は『メダロット』シリーズの原作者にしてキャラクターデザイナーのほるまりん氏にご登場を願い、本作の設定やデザインが決定するまでの経緯を尋ねることにした。


■ロボットのいる日常

――まずはシリーズの核であるゲームソフトの企画経緯からお聞かせください。

ほるま 私が21歳くらいの頃でした。「ロボットのパーツを取り合う」というところから始まり、何度も打ち合わせをして世界観、ロボットの身長、デザインの方向性等を決めていきました。

メダルが脳という案は開発側からで、割と早い段階で決まってました。私から出した案は ・・・舞台を「ロボットがいる以外はまったく普通の世界」にしたことです。なにしろ小さい子供を対象にしたゲームだったので、分かりやすい方が良いと考えたんですよ。

たとえば舞台が戦場ならばロボット同士を戦わせやすいですが、戦争体験のない世代にはピンと来ないでしょうしね。
で、子供達が集まる場所として駄菓子屋が浮かびましたが、時代に合わせてコンビニエンスストアにしました。

もしロボットが発売されるとしたら、私は絶対に役立たない物だと予想してたんですよ。

だから「役に立たないロボット」の方がリアルだと考えた訳です。実際に史上初の市販ロボットが登場しましたが、何かの役に立つようなロボットではありませんでしたからね。自分の説は正しかったと思っています(笑)。

そして身長設定ですが、ロボットの身長を設定する場合、人間よりも大きいか小さいかの二択になりますよね。そして当時の「ボンボン」はガンダムで成り立っていたと言っても過言ではないですし、同じサイズにしても目立たないと思ったんです。そこで主人公の弟みたいなサイズにしました。

もし命令通りに動く設定だったらお父さんサイズが良いんですが、それもほかで既にやられてますからね。また初期段階から家の中でのドラマも想定していたので、あまり大きいと家の中に入れなくなってしまうんですよ。ガレージに置くという見せ方もありますが、それよりは食卓に普通に座らせた方が面白いですし。


■メダロット創造

――メダロットのデザインはどのようなやりとりで描かれたのでしょう?

ほるま 最初に「こんな感じ」というオーダーを受けます。あまり複雑なデザインを描いても画面では再現できないし、かと言ってドット画で活かせる範囲で描くとシンプル過ぎるし。そんなせめぎ合いあったので、あまりオーダー通りには描けませんでした(笑)。

最終的にはシルエットで分かるデザインにしておけば良いかなと。基本的には正面画ばかり描いてますが、主役級のメダロットに関しては背面や側面も描いてます。マンガに登場するキャラはその場でデザインを考えました。ただアニメの背面設定などは現場の方が起こしています。

――両腕の武器は性能ありきでデザインされるのですか?また、カラーリングはどのように決められたのでしょう?

ほるま 最初の手探り状態だった頃は、こちらで性能を考えながら描いてました。「撃つ」「殴る」等が均等に配分されるよう。でも、デザインした後に設定が変わり、武器の外見と効果が合わなくなることもありました。そんな場合は再びデザインを描き直しています。

当時は今ほどゲームのグラフィック技術が進歩していなかったので、開発側がロボットの性能として最初に考えるのは「数字をどうやり取りするか」なんですよ。

私へのオーダーも「そのキャラクターが具体的に何をするか」ではなく、「後でジワジワとダメージが出てくる」等の数字を増減する上での性能が基本でした。でもデザインする側に必要なのは「殴る」や「撃つ」という具体的な情報で、「少しずつ減らす」なんて特徴をデザインに反映することなど出来ませんからね。そこの摺り合わせを何度もやらなければならないのは大変でした。

ほとんどのカラーリングはゲームの開発スタッフが考えています。キャット、ドッグ、タートルの赤青黄はイメージしてましたが、私自身は「色って必要だったんですか?」くらいに構えてたんですよ。なにしろ最初はモノクロのゲームボーイソフトでしたからね。実はカブトは最初はワインレッドだったんです。でも主人公の服が赤なので茶色っぽいオレンジに変更しました。クワガタが紫っぽい青なのも主人公と並べたときのバランスを考慮した結果です。

――メダロットに性別を設定したのはなぜでしょう?

ほるま 基本的には男の子が遊ぶゲームですからね。女性型を出しても大活躍するとは考え難いし、それならば出すことに意味はない。ならばレアアイテムとして女性型を出せば、子供達も欲しがってくれると考えた訳です。

また女性型ロボットって可愛く描かれることが多いですが、それは他の作品でもやっていることなので、こちらは男性型と同じラインを意識しました。女性ユーザーから「女性型がちゃんとカッコイイのが嬉しい」と手紙もいただけたので、それは正解だったと思います。

ただ『メダロット2』からはアニメとの兼ね合いもあって、私がデザインしたセーラーマルチはマンガのみの登場になり、ゲームにはアニメ設定の可愛いデザインが使われることになったんですよ。なので看護婦型のセントナースは「その方向性」に併せました。これは他の作家さんではなかなか出来ないことだと思いますよ。当時は若かったので「大人に媚びておこう」と考えた訳です(笑)。


セーラーマルチ

セントナース


■脱皮したカブトムシ

――それでは主人公メカであるカブトムシ型、クワガタ型の誕生経緯をお聞かせください。

ほるま 主要メダロットにはペットとしてよく飼われている動物が検討されてました。悪ガキ3人組がネコ、イヌ、カメなのもそんな経緯です。カブトはまだ主役機が決まっていない頃の脇役候補で、木から降ってくるチョイ役くらいの扱いだったんですよ。でも、その後「主人公はカブトで良いのでは?」と考え、脇役用だったデザインを主役機っぽく描き直し、これと対極的な主役機としてクワガタを考えました。

――各々のデザインコンセプトをお教えください。

ほるま メタビーは古くさい戦車のイメージです。頭のミサイルを二連式にしたのは、単発式は既に他でやってそうだと言われたからです。
この構造だと同時発射は無理ですね(笑)。

肩のタンクはカブトムシの前羽ですが、直接的な羽にはしたくなかったので円柱にしました。
中に何が詰まっているのかは私も知りません(笑)。

腕は左右で違う武器を装備している設定ですが、パーツ自体はあえて同型にして銃口の本数で差別化しました。工場では同じ金型で生産されているイメージです。脚のディテールはポリタンクですね。

ロクショウはもともとヘッドシザースという機体名でした。でもマンガの中ではロクショウと呼び始め、これが定着したのでゲームでも統一させることにしました。本当は「ヘッドシザース型のロクショウ」いう個体名のイメージでした。デザインは古くささを意識したメタビーに対し、こちらは未来っぽいイメージで描きました。ポリタンクのような既存のデザインは一切使っていません。

実は両方ともそんなに枚数を描かずにOKをもらっているんですよ。ロクショウに関しては一発OKでしたし、主役機だからと言ってデザインで苦労したことはありませんでした。ただし両方の後続機を考えるのは大変でした。『メダロット3』からは変形機構も考えなければなりませんし。でも個人的には変形させることに疑問があったんですよ。メダロットはロボットとしてはヒネくれた道を歩んでいたので、他のロボットと同じに見られてしまう危険性を感じました。


■メダロットの記号、そしてネーミング

――メダロットは動物以外にも職業、宇宙人、悪魔、干支、星座など様々なタイプがありますが、これらのモチーフはいかにして選ばれたのでしょう?

ほるま 基本的にモチーフ選びは開発側のスタッフが考えていました。一通りの動物を出してしまったので、ネタを探すのは大変だったと思います。ただ初期の宇宙人型は私のアイデアですね。あれはディテールのないヤツが一体くらい欲しくて描きました。

――数多くのバリエーションを持つメダロットですが、何か共通の記号のようなものは意識されましたか?

ほるま まず顔はシンプルに。あまり複雑にするとゲーム画面では再現できませんし、子供がマネして描こうと思ってくれませんからね。また所々にネジを置いてます。関節部に防塵カバーを付けたタイプが多いですが、これは子供達が公園の砂場で遊ぶことを想定しました。

子供たちはまだ世界の全てを知り得てないので、彼らが知るものは極力デザインに盛り込むようにしました。先ほどお話ししたポリタンクやネジがそうですね。そのようなディテールを入れることで人工物であることが分かる訳です。逆に彼らが知らないものを入れると敷居が高くなるんですが、そのような大人びたデザインを好む子供もいますね。

――メダロットの名称はどなたが考えてらっしゃるのでしょう?

ほるま 名前はごく一部を除いて皆で考えました。私が考えたのは初期のマゼンダキャット、シアンドッグ、イエロータートル、そしてロールスター等ですね。基本的にはデザイン画と一緒に名前を考え、「こんな感じ?」ってメモを書いておくんですよ。でも却下されてました(笑)。

――対して人間たちの名前が『メダロット2』(アニメ)では天領、甘酒、辛口、純米と、酒類になっていたのが印象的でした。

ほるま たしか最初はお米でしたよね。キャラクターの名前には何か統一感を持たせたかったのですが、無難なものは他の作品で既に使われてるんですよ。このときはギリギリまで決まらなくて、結局お酒にしてしまいました。子供向けでイッキとか大丈夫なのかとも思いましたが(笑)。

怪盗レトルトは本当は冷凍食品の名前を予定してたんですよ。でもカタカナでしっくりくる名前が思い浮かばなかったのでレトルトにしました。常温保存だけどまぁ良いやって(笑)。


■アニメ版との棲み分け

――そして1999年、コミックと同時進行でTV放映が始まりましたが、アニメ版との差別化は意識されましたか?

ほるま 同時連載だったのでアニメ版とは被らぬように、かと言って違いすぎぬように心掛けました。最初にアニメ数話分のあらすじをいただいたので、先の展開を計算しながら漫画の話を考えることが可能だったんですよ。

アニメはメダロットが破壊される描写はあまり描かれず、ロボットとはいえ残酷な表現は避けられていました。でも漫画版では出来るだけメダロットを壊してましたね。機械が壊れるシーンってカッコイイじゃないですか(笑)。ただコマによって壊れ方が変わらないよう気を遣うのが大変でした。

私自身、あまりアニメをあまり見ないので専門的な事は分かりませんが、映像では微妙な一瞬の動きに気を使ってくれていたと思います。

またページ数の制約がある漫画では戦闘シーンをじっくり描けないので、そこを細かくやっていただけたのは嬉しかったですね。特にペッパーキャットの走り方や足音を考えてくれた事には感謝しています。

最も印象的だったのはロボロボ団の初登場シーン(第6話)で、夕方の「逢魔時」にしてくれたのが嬉しかったです。本質的には気持ち悪くない人たちなので、夕方の気持ち悪い時間帯に出てきたのが良かったです(笑)。


■立体としての正解

――ではいよいよ「D-Arts」を実際にご覧になった感想をお聞かせください。

ほるま 複雑な形状をよく再現していますね。

メタビーって直線的なイメージですが、実は変な曲線が多いんですよ。この頭がどんな形になっているのか、私自身も描いてて分かりませんでしたから(笑)。

腰カバーの裏にディテールが入っているのも良いですね。こういうのが好きな男の子は喜びますよ。自動車のタイヤの隙間から内側ばかり見ている子供とかいますからね。
ボディには興味ないのかよ!って(笑)。

漫画家が抱いているイメージはあくまでも平面的なので、立体のプロの方にこういうものを作っていただけるのは嬉しいんですよ。このように肩や腰のカバーが独自に動く表現には感心しますね。漫画ではパーツ同士の干渉まで考えなくても済みますが、立体として動かすならばそんな訳にはいきませんからね。

多分、ファン的にはもとの絵が正解で、そこに近づけた立体物を求めていると思うんですよ。でも、所詮は実在しないものなので、決して絵が正しいとは言えないんです。動かすために変えるべき部分があればどんどん提案いただきたいです。「絵の通りに作ったら動かなかったけど、絵の通りなんだから文句言わないでね」って訳にもいきませんからね。やっぱりアニメのように動かして遊びたいですから。

金属パーツを使った重量感、そして武器のエフェクトパーツが良いですね。今は写真にCGで加工が出来ますけど、ちゃんとパーツとして付属しているのが良いですね。メダロットは身長設定が特殊なので、同スケールの何かと並べたいです。

――2011年7月16日・17日に開催された『魂フェスティバル2011』にて第2弾 ロクショウの商品化決定が発表されましたが、商品化について、先生からの個人的なリクエストはありますか?

ほるま 『メダロット5』のシンザンです。
ミヤマクワガタなので「深山(しんざん)」という名前にしたんですよ。もう一体の主役機であるクロトジルと共に立体化に恵まれてないので欲しいですね。

――では最後にお聞きします。現在はキャラクターデザインの講師をされているそうですが、「ロボットのデザインはこうあるべき」という座右の銘があればお教えください。

ほるま むしろ「べき」と断定するのは良くないと思うんです。もちろんデザインは用途ありきですので、用途上の「べき」は必ずあります。メダロットに関しても「子供が真似して描けるような」とお話ししましたが、そんなルールは本当はない方が良いと思うんですよ。とは言え、あまり独創的なデザインを描くと突っぱねられるのが現実です。

デザインの仕事で「他にない独創的なのを」と発注されることが多いんですが、実際にラフを何枚か見せると「もうちょっと普通に」って言われてしまうんですよ(笑)。結局、大人は何かを作るときは安心を求めるんですよ。

ギャンブルしたくないから会社員になった訳ですから(笑)。
なので「べき」がないのはあくまでも理想論で、仕事でデザインをするなら「べき」は必要なんですよ。



ほるまりん
3月1日生まれ / 群馬県出身 / 有限会社アトリエほるまりん所属

専門学校在学中に講談社「コミックボンボン」編集部員と出会い、これがきっかけで漫画家となる。卒業直後にゲームソフト『メダロット』の開発に参加。設定制作やキャラクターデザイン等を手がけつつ、「コミックボンボン」でも本作のコミック版を連載する。2009年発売のシリーズ最新作「メダロットDS」においてもキャラクターデザインを担当し、同年よりスタートしたコミック版がアスキー・メディアワークス刊「デンゲキニンテンドーDS」にて連載された。現在は専門学校にて講師も務めている。


公式ブログ http://www.medarotsha.jp/ds/blog
 


D-Arts
メタビー


価格(税込):3,465円
発売日:2011年7月23日
対象:15才~


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新世代デジタルキャラクターをバラエティに富んだラインナップで立体化するシリーズ。
各作品の特徴に合わせてサイズ・可動機構・素材を採用し、キャラクターの世界観を最大限に再現します。



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    2011年07月23日 発売

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