魂の骨格 第15回 デザイナー 渡辺けんじ
2010-11-12 00:00 更新
カードゲームの絵柄やパッケージなどで見ることのできる、デジモン本来のデザイン。
それらの作画を一手に引き受けるのが、株式会社ウィズに所属するチーフデザイナー・渡辺けんじさんです。
デジタルモンスター生みの親の渡辺さんに、D-Artsをご覧になっていただきました。
■ テーマは戦うたまごっち!?
──「デジモン」を手掛けられた経緯をお聞かせ下さい。
渡辺 ウィズは、いわゆる商品企画と開発の会社です。 当時、バンダイさんのボーイズトイ事業部から「たまごっち」を出していたんです。そこで本来は男の子向け玩具のボーイズなので、戦う「たまごっち」が欲しいという話になりました。
僕らもちょうど、男の子のラインも欲しいよねって話をしていて、「たまごっち」の育成部分とバトルを活かした玩具を作ろうということになったんです。
そこから「デジモン」が生まれました。僕は「たまごっち」でドット絵を打ったりしてたこともあって、キャラクターデザインに選ばれた感じですね。
──デジモンのデザインはどうやって作られたのでしょう?
渡辺 納期まで時間もないしイラストのテイストも決まってない、どうしようって話になったときに、一番いい形にするから、僕が描きたいものを自由に描かせて欲しいと頼んだんですよ。
当時アメコミのフィギュアが出始めの頃で、ああいったデザインをちゃんと子供に落としこめるような、かっこいいイラストを描きたいと思っていたんです。
そこでアメコミタッチのモンスターを、一気に20点くらい描いたんです。
──確かにイラストは黒い影タッチがアメコミ風ですね。
渡辺 影いらないだろうってところを真っ黒につぶしてみたり、かなり雰囲気でやってしまっています。
実はアニメにするときも、影を入れるかで問題になったんです。
子供番組で影がキツいと暗い画になってしまう可能性があったのと、人間との差別化が難しいということで、止めることになりました。
逆にアウトラインでキャラクターが分かるように、シンプルな線でまとめてもらいました。
──アニメ『デジモンアドベンチャー』の感想をお聞かせ下さい。
渡辺 もちろん自分の描いたモンスターが、アニメになるんだっていう感動がありましたね。
「たまごっち」もブレイクしましたけど、「デジモン」はアニメという形でそれ以上に広がっていきました。海外にも広がって、海外の子供たちがクールって言ってくれました。
アメコミを意識したデジモンが、いわば逆輸入の形で受け入れられたのは、デザインする身として嬉しかったですね。制作現場にも立ち会ってアニメ作りの楽しさも教えていただきました。
■ 生みの親、D-Artsを語る
──D-Artsウォーグレイモンをご覧になった感想をお聞かせ下さい。
渡辺 以前うちでやっていた「D-Realシリーズ」を思い出します。進化してますね。
動きの自由度があって、ポージングもかっこいいですよね。あの頃うちからバンダイさんに、ちゃんとしたフィギュアを作らせて下さいってお願いしたのが「D-Real」だったんです。
だから当時も、けっこう形にはこだわってたんです。
D-Artsは企画の最初から見せていただいているのですが、かっこいいなと思います。
いまは昔と違って、『デジモンクロスウォーズ』のシリーズと並行して、こういう別ラインも出来るのが面白いですね。
──ウォーグレイモンはアニメに合わせて生まれたデジモンなのでしょうか。
渡辺 アニメ側から具体的な要望はありませんでした。商品的にアグモンからの進化系列っていう事が決まっていたので、ドラゴンウォーリア・竜戦士を思いついたんです。
当時は超進化シリーズとして、アグモンから変形するフィギュアが出ることも決まっていたので、何かしらアグモンがウォーグレイモンになるための要素を作らなきゃいけないと。
そこで篭手や翼(ブレイブシールド)を付けています。
──ウォーグレイモンのデザインポイントは?
渡辺 竜人であることでしょうね。人の足にしちゃうところを竜足にしてみたり。人の形だけども竜っぽさも残るように意識してます。鎧もデジモンらしくメカっぽくして、パイプも付けてますね。
──丸いつぶらな目が印象的ですが?
渡辺 本当は獣目なんですけど、トカゲっぽい表情のない目を目指していたりします。やはりキャラクターなので目力がないといけないと思うので、目の表現は意識してやっていますね。
獣なんだけど、意志がある感じです。
■ オメガモン誕生秘話
──オメガモンについてもお聞かせ下さい。
渡辺 オメガモンは、映画があって生まれたキャラクターです。映画の中で究極体を越える究極体が欲しいという、そんな無茶な話をされて(笑)。
グレイモンとガルルモンが協力して戦うようなキャラクターが欲しいと監督に言われ、そこから生まれたデジモンですね。商品化の話もなく玩具を全く意識していなかったので、ヒョロッとした身体をしてます。
細いラインのロボットが出始めの頃で、面白がりながら描いてました。ある意味で最もデジモンらしいデジモンかもしれません。
実際に象徴みたいになってますよね。
──合体デジモンという発想はどこから?
渡辺 一緒になって戦えるっていう、監督のイメージを汲んで出てきたんだと思います。
──デザインのポイントは?
渡辺 細い腰ですね。あとは両手についてる武器の強調かな。
グレイモンとガルルモンの頭をドンと見せながら、騎士っぽくなるように考えました。
結果的に色でまとめようと思ったときに、シンプルに胴体を白にしました。騎士の色ですから。
■ デジモンデザインのヒミツ
――独創的なデジモンのデザインは、どこから生まれるのでしょう。
渡辺 デザインソース自体は、実在するモノからとっています。デジタルの世界はいろんな情報があるわけで、その情報を取り入れたモンスターだと面白いかなって考えたんです。
デザイン的には恐さと可愛いさを合わせたキャラクターを意識しました。個人的にファスナーとかベルト、ポケットがいっぱいあったりするのが好きなので、そうした要素も取り入れています。
意外にまだまだデジモンになるものってあるんですよ。例えばサメとかね。実はサメはまだデジモンになっていないんです。
『クロスウォーズ』にブラストモンってキャラクターがいるんですけど、最初はサメを描いてたんです。ところが「違うんだよね」って言われて。
ああ、またサメが遠のく・・・。
クジラやイルカはいるのにって(笑)。
──「進化」ルートはデザインの段階で考えているものなんでしょうか?
渡辺 あえてデジモンではそれを意識しないでやってるんです。逆に携帯ゲーム機で遊んだときに、モンスターがこんな風になっちゃう意外性を大切にしています。
全体の世界観として天使系とか悪魔系とかの大枠はあるんですが、その中で魚とか鳥とか恐竜とか、何になるかは自由に考えてます。モンスターを何に出来るだろうっていう可能性。
その1本線じゃない「進化」が、子供たちに受け入れられたところなのかな。
■ イタコみたいなものですね
──難しい質問かと思いますが、お気に入りのデジモンはいますか?
渡辺 ベルゼブモンには自分のテイストがバリバリ入っていて好きですね。
一番デザインを自由にやったのが『デジモンテイマーズ』かも知れないんです。
実は初めにベルゼブモンがあって、こういうデジモンを出したいってところから掘り下げていったんですよ。
敵役としてしっかりとしたダークヒーローを描かないと、主人公たちがかっこよくならないと思ったんです。
──これまでに発表されたデジモンのデザインはどの程度手掛けられているのでしょう?
渡辺 全てをデザインして画を描くのは大変になっちゃっているのでスタッフを使ってはいるんですけど、結果的にデザインはほとんど自分でやってますね。
上がってきたものにはチェックを入れていますし、大概のものに手を加えています。
──これだけの数を描き続けるのは大変なのでは?
渡辺 僕が1人でアイデアを出し続けていたら、難しかったと思います。ウィズの企画の人間やバンダイの太田さん(※)がアイデアを出してくれたおかげで、色んなキャラクターが生まれました。
こう言うとあれなんですけどデジモンのデザインって、実はそんなに描きたいものを描いているわけじゃないんですよ。みなさんの話を聞きながら、こういうものを描いていこうって決めていく。
最初のテイストは自分で決めたかもしれないけど、内容は自分だけって事ではないんです。
以前、自分の仕事については、「イタコみたいなものですね」って答えたことがあります。みんなが欲しいものを自分の中に取り入れて、イタコみたいに自分の中に取り入れて、咀嚼(そしゃく)しながら出力するのが、僕の仕事なのかな。
自分が描きたいものだけ描いていたら、多分描けなくなっていたと思います。だからデジモンのデザインには、こだわらないんです。そんな寂しいこと言わないで下さいって言われるんですけど、それが長く続ける秘訣なんですよね。
※パイルボルケーノ太田の名で活躍したデジモン名人
渡辺 けんじ (わたなべ けんじ)
1966年3月21日生まれ / 神奈川県出身
「デジタルモンスター」シリーズを生み出した、玩具企画会社ウィズのチーフデザイナー。
代表作品は、「たまごっち」、「よいこっち」、「マジカルウィッチーズ」、ドールと声優のバラエティ番組「ドーリィ☆バラエティ」の企画プロデュースなど。
「レジェンズ」では原作も務める。